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風船方式で、世界で一番安い太陽集熱装置を作る

 いまや日本の農業は、付加価値の高い農産物だけでなく、農業機械や栽培技術の輸出など、海外戦略の目玉になっています。今年も「アグリビジネス創出フェア」(11月12日〜14日)が開催されました。やはり関心は高いですね。ということで、取材してきました。

60℃から100℃の熱水を回収する追尾型の太陽集熱装置

 それは初めて見る構造でした。名称はバルーン型太陽集熱器。開発したのは九州大学大学院特任教授の栁謙一氏です。

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 装置は円筒をヨコに置いた形をしています。円周部分の下側、だいたい4分の1がアルミの反射鏡になっていて、それ以外の面は透明な樹脂フィルムで覆われています。装置の直径は1.4メートルでした。
 構造はいたって簡単です。反射鏡の焦点に当たる位置に棒状の集熱菅が通してあります。管の中に水を流し、太陽光で熱水として回収します。太陽の動きにあわせて円筒が回転する追尾装置が取り付けてあるため、熱の効率はよく、
「60度から100度ぐらいの熱水が回収できる」
 と、栁氏は説明しています。この熱水を吸着式冷凍機の熱源にするというのが全体の構造です。冷凍機とつないでいるのは、植物工場を主な用途として想定しているからです。農作物の栽培には温度を上げるだけでなく、温度を下げる必要もあるからです。
 冬は熱水、夏は冷水。これがバルーン型太陽集熱装置のメリットであり、狙いです。
 おおまかな構造は理解できましたが、どうしてもわからなかったのがバルーンです。どこがバルーンなのか。栁氏はこう答えました。
「膨らませているからです」
「なぜ膨らませる必要があるのですか。下の反射鏡があればいいのでは」
「本当は透明なフィルム部分はいらないが、きれいな曲面の反射鏡にするためバルーンにしている」
 なんだか、禅問答みたいになりましが、そのうち私は自分の勘違いに気づきました。私は、反射鏡は板を曲げて作ったものと思っていたのです。それが間違いでした。
「銀紙と同じで、樹脂フィルムにアルミを蒸着させて作っている」
 つまり、反射鏡は円筒形の装置を覆う樹脂フィルムにアルミ蒸着させたものなのです。ですから、膨らませる必要があったのです。では、なぜ風船構造にしたのか。栁氏の答えは明快でした。
「反射鏡を安く作りたいから」
 ここに尽きます。精度のいい反射鏡を作るにはそれなりのコストがかかります。バルーンならその製造コストが抑えられるから。それがアイデアの元だそうです。

市場はサウジアラビアなど中東、海外を想定している

 日本はサンシャイン計画の一環として「太陽熱発電プラント開発」のプロジェクトを実施しました。実験期間は昭和54年〜59年の4年間。事業費総額は25億円です。栁氏は三菱重工業の技術者だった頃、この開発に参加していました。
「あのプロジェクトはものすごくお金がかかっていた。もっと安く作らないと普及しない。当時から、そう思っていた」
 安く作りたい。バルーン型はその教訓の結果でもあるのです。

 ただし、日本で太陽集熱システムの採算は難しいというのが栁氏の判断です。このため、当初からサウジアラビアなど中東、海外を主な市場として想定しています。

 この装置は「スマートエネルギー利用植物工場」の技術のひとつとして文部科学省が実施する大学発新産業創出拠点プロジェクトとして平成24年度に採択されました。このプロジェクトは「リスクは高いがポテンシャルの高いシーズ」に対して、国と民間の投資会社が関わることでビジネス化するのが狙いです。ですから、当初から市場は海外、それも資金力のある中東を想定しているのです。

 海外に「日本の農業技術を展開」する、その大きな流れの中にある研究ともいえます。