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燃料は水。光とありふれた材料があれば発電できる光燃料電池の未来

 次世代エネルギーの新技術説明会で一番聞きたかったのが光燃料電池の話です。千葉大学大学院理学研究科の泉康雄准教授の研究です。

 光燃料電池はその名前の通り、光で発電する燃料電池です。燃料は水です。主な材料は酸化チタン。光触媒の原料です。それに僅かな銀。すべてがありふれた材料です。それで発電できるのです。これなら事業化もしやすくなるはずです。そう思ったのは私だけではないかもしれません。

 冒頭で泉准教授は、研究開発のコンセプトは次の要素を持った変換デバイスを作ることにある、と説明しました。

  • 持続可能で、安価。
  • 場所にとらわれない。
  • シンプルな原理・構成。

 説明会ではデモンストレーションが行われました。これはよかった。というのも、このコンセプトにのっとって研究、開発されている仕組みということが実によく分かったからです。

構造はきわめてシンプル。LEDの光を当てるとすぐに発電する

 実験装置は円筒形の透明ガラス製容器をヨコに寝かしていると想像して下さい。これがセルに相当します。円筒形の両端には電極が取り付けられ、2つの電極が外部回路で結ばれています。一方の電極は酸化チタン。もう一方はナノ粒子の銀を含んだ酸化チタンです。

 円筒の中央には仕切り板があります。これはイオン交換膜で、固体高分子燃料電池にも使われているデュポン社のナフィオンです。円筒形の容器には透明な液体が溜まっていました。これは薄い塩酸の水溶液です。

 以上が装置の構造です。実験は簡単なものでした。それぞれの電極にLED光を当てるだけです。発電しているかどうかは電流計で測定します。メーターの数字を確認すると、60マイクロアンペアを越えていました。確かに発電しているのです。

電極は酸化チタンと少量の銀。コストを安くできる新発電システム

 固体高分子燃料電池の場合、触媒にプラチナを使っています。この値段はべらぼうに高い。しかもセパレーターなどの加工費も高いわけです。しかし、光燃料電池で使うのは酸化チタンと少量の銀だけ。酸化チタンは光触媒として使われているポピュラーな材料です。銀もプラチナに比べると圧倒的に安く、使用量もごく僅かなのです。

 一番の驚きというか、コストをあまり気にしなくても良いなと思わせるのは燃料が水であるという点です。一般的な燃料電池の大きな課題にもなっている水素の製造・供給体制、あるいは安全性を確保するための貯蔵タンクの開発なども不要。それに安全基準で消防庁の検査を受ける必要もありません。何といっても水ですからね。

 使われているのは、ありふれた材料。これが大きな特徴であり、この新技術のユニークさでもあるのです。言い換えれば、事業化しやすい技術開発ともいえるのです。これは企業にとってはかなり魅力的なはずです。

 では、光燃料電池はどんなメカニズムで発電しているのでしょうか。私が理解している範囲で説明します。

 酸化チタンの電極は光が当たると光触媒の作用で、水を水素イオン、電子、酸素に分解します。水素イオンは水溶液中を通ってイオン交換膜を通過し、反対側にある銀を含む酸化チタンの電極に移動します。電子は外部回路を通って、やはり銀+酸化チタンの電極に移動し、水素イオン、酸素と反応して水を生成します。

 簡単にいえば酸化チタンの電極で電子を放出し、銀+酸化チタンの電極側では水を作る、その循環メカニズムの中で発電しているのです。

魅力なのは理論値で3ボルトの大きな起電力が得られること

 光燃料電池は光で発電するという点では太陽電池と同じですが、大きな違いがあります。起電力です。光燃料電池の単セルで得られる起電力は大きくて、理論上では3ボルトは出せると泉准教授は説明しています。シリコン系太陽電池の起電力は一般的には0.5ボルトとか0.8ボルトといった程度ですから、それに比べたら光燃料電池はずいぶんと大きいのです。現状では電圧は1.59ボルトを達成しています。

 今後は、電極に使う光触媒の開発、酸化チタン粒子のサイズなどの研究。さらには光燃料電池をスタックにするため、燃料電池と同じように、平らな板状のセルも開発中です。セルを何枚も直列につなげば、さらに大きな電圧を稼ぐことができます。

メガソーラーから気象用のセンサーデバイスまで、用途はあなたの想像力次第

 企業にとって気になるのは光燃料電池のコストと用途です。コストは材料が水と酸化チタン、少々の銀です。そんなにかかるとは思いません。企業のやる気次第でしょう。

 では、用途はどうか。これは本当に、あなたのイマジネーション次第です。光に反応するので、屋外での緊急用や携帯用の電源。災害時のバックアップ電源。材料が安いため大規模なメガソーラーにも向いています。気象用などのセンサーと一体化したデバイス。あるいは起電力の大きさを生かす使い方もあるはず。企業との共同研究が欠かせません。

 とにかく、早くプロトタイプ機を見たい。そう思わせる技術です。泉准教授は共同研究相手の企業などを募っています。