林地残材の現場で電子部品の材料を製造する。地域にリグニン産業を
山林に放置された間伐材などの木質バイオマスから改質リグニンを製造する技術です。電子部品の基板などにも使えるということですから、かなり良質なリグニンがとれるのです(バイオマスエキスポ2016にて。6月15日〜17日)。
(リグニン抽出のためのリアクター)
(エレクトロニクス用の基板)
(配管のシール材)
一番の特徴は木質バイオマスからリグニンを製造する装置がコンパクトなことでしょう。リグニン抽出のための圧力を必要とせず、しかもコンパクトだから現場で処理できるわけです。山から木を運び下ろす必要がないため、コスト的にもメリットがあります。
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の中で、森林総合研究所が中心となって研究コンソーシアム「地域リグニン資源システム共同研究機関(SIPリグニン)」を結成。研究法人が5つ、企業が8社、9つの大学が集まって実用化を目指しています。
現在はベンチプラントの段階ですが、研究は平成30年度まで続きます。
ダウンコートで発電できる? 厚膜の熱電変換材料を開発、東京農工大
この材料を糸と一緒に衣類に織り込んだらどうなるか。布団の綿と一緒にする、いや、太陽電池と組み合わせて屋根に使ったらいいかもしれない。いろいろな妄想が浮かびました。
東京農工大学大学院の下村武史教授が開発した高分子厚膜体の熱電変換材料です。物質の両端に温度差を作ることで発電するのが熱電変換材料です。発電能力は断熱性、導電率などによって変わります。
広く知られているのは無機材料。排熱などを利用する熱電変換デバイスは既に実用化されています。しかし有機の熱電変換材料はまこれからです。
下村教授が開発したのは導電性の高いポリチオフェン系導電性ポリマーです。
映像を見ただけですが、この材料で作った小さな球を指で摘むと簡単に潰れますが、離すと復元しました。弾力性、フレキシビリティのある材料なのです。
有機系の熱電変換材料の研究者たちは、これまで薄膜の開発を中心に進めてきたそうです。
しかし下村教授は薄膜では断熱性が高くとも薄いのですぐに温度差がなくなり、実用には向かないと考え、厚膜の開発へと方向転換しました。
厚膜は樹脂を発泡することで作っています。発泡によって空気層ができるので、厚みと断熱性を維持できるのです。しかし逆に導電率が悪くなります。
発泡技術や、導電率をどう改善していくのか。課題はまだありますが、高分子の実用的な熱電変換デバイスができれば用途はぐーんと広がります。
ちなみに、つい最近、特許出願された技術です(6月16日、科学技術振興機構で発表)。
量産車で世界初、出力180Wのソーラーパネルを搭載したPHVプリウスを公開
本日(15日)から始まった「スマートコミュニティJapan」(6月15日〜17日、東京ビッグサイト)に行ったら、トヨタ自動車の新型車の公開に出くわしました。
ソーラーパネルを搭載した新型のPHV(プラグインハイブリッド)プリウスです。ルーフ部分に最大出力180Wのソーラーパネルが設置されていました。量産車にソーラー発電システムを搭載したのはこのプリウスが世界初だそうです。
搭載されたソーラーパネル。
急速充電が可能。
この車両には駆動用のバッテリーのほかに、ソーラーバッテリーと呼ばれるニッケル水素バッテリーを搭載しています。
出力は180Wですから発電量はあまり期待できません。説明員によれば、駐車中に発電した電気はソーラーバッテリーに一時蓄電し、走行に使用します。また、走行中に発電した電気は補機で利用されるということでした。
ソーラーパネル搭載のプリウスは今年秋には発売される予定ということでした。
企業魅力度はトップが電気機器、最下位はエネルギー。電通PR調査
電通PRの企業広報戦略研究所は、一般生活者(調査対象者1万人)が企業のどのような活動に魅力を感じ、その魅力がどのように伝わっているのかを解析するため、2016年3月に第1回企業魅力度調査を実施。その結果を6月に公表しました。
この調査の中で個人的に一番興味があったのが業種別ランキングです。
10業種、計150社を対象に、「人的魅力」「会社的魅力」「商品的魅力」の3要素で生活者がこれら企業をどう見ているかを調査しています。
一般生活者1万人が「魅力を感じる」とした項目の合計数を積算すると、業種別の第1位は電気機器でした。次いで自動車、医薬品・生活用品が続きます。
一方、ランキング最下位はエネルギー。第9位は鉄道・航空・運輸でした。どちらも公共的な事業の色彩が強い業種です。
しかしエネルギーの得点はランキング1位の電気機器の半分もありません。電力の小売り全面自由化、再エネ市場、原発など、エネルギーは注目度の高い分野です。それに国の根幹に関わる業種ですが、生活者にとっては魅力的な業種とは写っていないようです。
価値があるのに放置されている、未利用海藻ダルスの商品化を狙う北海道
ダルス(DULSE)という海藻を北海道立工業技術センターが国際食品工業展アカデミックフォーラムで展示していました(東京ビッグサイト。6月7日〜10日)。
生のダルスは紅紫色をしています。加熱するときれいな緑色になるというユニークな海藻です。初めて見たので、試食させてもらいました。生を冷凍解凍したもの、塩蔵品。それから、つくだ煮、ナムル味に調理したものがありました。
試食して真っ先に感じたのはその食感です。しゃきしゃきして、歯触りがいいですね。つくだ煮はノリのつくだ煮に近い感じでした。
味はあっさりしていますが、冷凍解凍、塩蔵品のダルスはえぐみがあります。これはミネラル成分が多く含まれているためです。しかし加工調理したものは気になりませんでした。
ダルスはアイルランドやカナダでは「海のパセリ」と呼ばれ、ポピュラーな海藻です。タンパク質、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含んでおり、食用、薬用として利用されているそうです。
しかし北海道のコンブ養殖の漁師にとっては厄介ものです。ダルスはコンブ養殖のロープにくっつくため、これをこそぎ落とさなければならないからです。
けれども欧米では知られた海藻で、栄養分も豊富。それに資源量は函館市などの周辺地域で年間1000トンから2000トンと推計されており、これを放っておくのはもったいない。というわけで、北海道立工業技術センター、地元事業者などが中心となって、この数年、ダルスの商品化を進めているのです。
函館ではかつて、商品価値はないと見られていた海藻のガゴメコンブを健康食品などとして商品化。新しい市場を育てた実績があります。その次のターゲットがダルス。そういう位置づけで取り組んでいるとのことでした。
玩具のレゴで簡単に3次元モデルが造れる、プロジェクター支援装置を開発。お茶の水女子大
玩具のレゴを使った3次元モデルの組み立てと、その作業の記録を支援するシステムです。お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系教授、梶尾一郎氏らが研究、開発しました。
主な装置はPCとマウス、それにプロジェクターです。立体モデルは3次元データ化され、組み立て作業も記録され、PCに取り込まれています。
操作は実に簡単でした。マウスをクリックするとプロジェクターによって、どのレゴをどの位置に置けばいいか。位置とレゴの形が投影されます。そこに必要なレゴを置いて、マウスをクリック。同様の作業を繰り返すことで、最終的には狙っている3次元モデルが組み上がります。
(写真。プロジェクターが照らしている部分がレゴを置く位置。左の投影図と同型のレゴをそこに置けばOKです)
教育玩具としての使い方もあるでしょうが、たとえば組立家具とか、装置の組み立てのガイドといった使い途もあります。あとはアイデア次第でしょう。とにかく操作すると、その面白さに気づくはずです。
6月9日のJST新技術説明会(科学技術振興機構)で発表されました。
うつ病の症状が簡単に判定できる血液検査法を開発、群馬大学
人の健康がいまどんな状態にあるのか。肉体的にはどうなのか、精神的には?
そんな情報を正確に測定するためのツール、デバイスの開発が進んでいます。数値で把握するのが難しい精神科の領域にも、それは広がっています。
群馬大学大学院医学系研究科の助教、宮田茂雄氏はうつ病の症状を判定する血液検査方法を研究、開発しました。白血球中の、ある特定のmRNA(メッセンジャーRNA)の量を測定することで、抑うつの程度を客観的に判定する方法です。
検査方法のポイントは血液中のmRNAの量で、うつ病の症状を測定できること。しかも検査に必要な血液は非常に少なくてすむことです。
群馬大学、山口大学で50歳以上のうつ病患者の血液をこの方法で検査したところ、抑うつ状態で特定のmRNAの量が増えることが確かめられました。
すなわち、患者がどのくらい症状がよくなっているのか、悪いのかが数値で判断できるわけです。
うつ病は精神科医の問診によって診断されますが、PET(陽電子放射断層撮影)、NIRS(近赤外線分光法)などの補助的な診断装置も使われるようになっています。ただし、これらの装置が、どの病院にもあるわけではありません。
それに比べて、血液検査で診断するこの方法はある意味、画期的な補助ツールともいえます。