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技術の現場から技術の先を読む    by MediaResource

成形スピードは10倍、でも省エネ。薄膜樹脂の高速成形法

 ニッチな技術に見えますが、こういう細かな技術改良を諦めないところに、日本のモノ造りの肝がある、そう思います。
 それは金型から押し出される溶けた樹脂の流れを撮影したビデオでした。樹脂の流れには不連続に、らせん状の渦のような乱れが発生していることが映像から分かります。撮影したのは首都大学東京大学院の水沼博教授です。滅多に見られない映像ですが、なぜ、このビデオを撮影したのでしょうか。理由は溶融損傷の発生状況を明らかにするためです。
 フィルムやシートなど、薄膜の樹脂製品は金型を使って、細いスリットから溶融した樹脂を押し出し,成形します。あるスピードで押し出すのですが、それが速すぎるとフィルムの表面がざらざらになって、平滑性が失われ、不良品になります。これが溶融損傷です。
 その原因は金型の出口付近で起こる、樹脂の不安定な流れにある、それを示す映像だったわけです。では、どう対処すればいいんでしょうか。
 溶融損傷は40、50年前から研究されてきましたが、なかなかうまい技術が見つからなかったそうです。金型内部の壁面をコーティングして乱れを起きにくくする。あるいは樹脂に添加剤を加える方法もあるそうです。ただしこれらも完全ではありません。コーティングは押し出し時の熱や摩擦によって時間がたつと劣化。耐久性に問題があるわけです。添加剤は市販されていますが、添加剤が混じることで樹脂の成分が変わり、それを嫌うユーザーもいます。
 簡単なのは、押し出しスピードを落とせばいいのでしょう。しかし、それでは生産性が低下します。工場としては量産スピードを高めながら、なおかつ歩留まりは高くしたいわけですから。
 水沼教授はもうひとつ映像を用意していました。やはり金型の出口付近を撮影したものですが、流れの乱れは収まっているように見えます。つまり、溶融損傷が抑制されているのです。これが水沼教授の開発した薄膜樹脂の高速成形法です。

 方法は実にシンプルです。樹脂の流れを回転するローラーによってコントロールします。この方法だと、通常の10倍程度までスピードアップしても溶融損傷は抑制できるとのことでした。押し出しスピードなど、最適化のための条件はいろいろあるようですが、構造的には実に簡単です。

 おまけの効果もありました。ローラーの回転は樹脂を外に送り出す補助力にもなります。このため金型内部の圧力が低下して、押し出しの動力を低減できます。つまり省エネにも貢献できるのです。
 実験はPDMS(シリコン樹脂)で行っているそうですが、今後はポリエチレンのようなポリマーを使う計画とうことです。
 この技術は食品の成形にもこの技術は応用できるようです。押出成形機の製造メーカー、食品メーカーなどとの共同研究を水沼教授は期待しています。