くれぐれも最後まで慎重に、補助金の手続きは。
この仕事を長く続けていると、いろんな事態に遭遇します。しかし、それは私にとっても初めての経験でした。
中小企業経営者にインタビューしていた時のことです。公の補助金を利用して設備を導入した、その経緯を私は取材していました。
取材慣れしていない経営者は最初は緊張していましたが、徐々に表情は柔らかくなりました。話の内容は面白く、これは記事にできると私も結構、楽しんでいました。
1時間ほどたった頃でしょうか、彼のスマートフォンに電話がかかってきました。大事な用件のようで、彼は私に待ってくれるように頼み、相手と話しを続けました。
最初は探るような声でしたが、そのうち彼は明らかに困惑していました。
偶然というのは恐ろしいもので、彼の電話の相手は補助事業の執行機関なのでした。
断片的に漏れ聞こえる内容をつなぎ合わせると、設備費の支払い方法が補助制度の規定とは異なっている。従ってあなたの会社に対する補助金の支払いに問題が生じている、そんなニュアンスでした。要するに、補助金は払えないというのです。
彼はなぜそうなったのか釈明していましたが、それは通じなかったようです。ついには彼は顔を紅潮させ、怒りに震える声で、こう言いました。
「私から補助金を辞退しろというわけですか」
なるほど、補助金の申請者が自ら辞退する形にしたほうが、執行機関側にとっては都合がいいのでしょうね。
で、私はその直ぐ後に、取材を諦め、会社を後にしました。彼は不機嫌そうに、もう取材は受けたくないと宣言したからです。説得しましたが、結局、だめでした。
彼のちょっとした手違いから(?)、書類を書いて申請する膨大な作業と時間、そして3分の1の補助金を失った。そういう話でした。