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日本ゼオンがカーボンナノチューブの量産工場建設を正式決定で、何が変わるか。

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(2014年5月19日に開催されたナノカーボンのシンポジウム)

 日本ゼオンは4月の取締役会でカーボンナノチューブの量産工場建設を正式に決定しました。2014年6月に着工。2015年10月に工場を竣工し、その後、製造を開始する計画です。この話のポイントは3つあります。

スーパーグロース法で高品質の単層CNTが量産できる

 日本ゼオンが製造するのは量産が難しいといわれていた単層カーボンナノチューブ(SCNT)です。独立行政法人産業技術総合研究所が開発したスーパーグロース法を使って量産します。

 この方法で製造されたSCNTは他の方法で製造したものよりも、チューブが長くて、欠陥の少ない、品質が極めて高いSCNTが得られます。

 スーパーグロース法を使ってSCNTを量産するのはもちろん日本ゼオンが世界で初めてとなります。

化学品メーカーなのにカーボンナノチューブを製造する理由。

 では、なぜ日本ゼオンなのか、です。この会社は樹脂やゴムなど、化学品のメーカーです。カーボンナノチューブのような無機材料とは縁のない会社でした。それがナノテクノロジーの世界で、最も先端を行くSCNTを量産するのです。一体、なぜか。そのキーマンが日本ゼオンの特別経営技監の荒川公平氏です。

 荒川氏はかつて、ポンプ製造などを手掛ける日機装の技術者でした。日機装はカーボンナノチューブの製造に関わる基本特許などを取得した会社であり、その開発の中心メンバーが荒川氏でした。

 彼が日本ゼオンに転職したのは2002年1月。スーパーグロース法が産総研で開発されたのが2004年です。

 産総研が荒川氏にスーパーグロース法によるSCNT量産の実用化開発を打診したのでした。

CNTを使えばキャパシタ人気が復活できるかもしれない。

 SCNTは様々な用途がありますが、産総研日本ゼオン日本ケミコンの3者は、キャパシタに使えるSCNTの量産技術開発を目指して、2006年からプロジェクトを立ち上げ、動き出しました。

 日本ケミコンキャパシタの開発、製造でも知られるメーカーです。

 キャパシタとは電気二重層キャパシタのことです。リチウムイオン電池のような2次電池とはメカニズムは違いますが、電気をため込む蓄電機能があります。小型の電気部品から、最近は大型のクレーンなど、特殊車両で導入されています。

 一番の特徴は充電・放電がすばやいことです。しかし、エネルギー密度が低いのが欠点で、限られた製品にしか導入できていないのが現状です。キャパシタをもっと広めるには、エネルギー密度の低さを改善する必要があるのです。

 キャパシタには通常、活性炭が使われていますが、それよりも高品質なカーボンナノチューブを使えば、エネルギー密度が改善されると、期待されているのです。

 日本ゼオンが製造したSCNTがどのくらいの単価になるのか。多分、量産すれば安くはなりますが、当初は、それほどコストは下がらないと思われます。

 そこで、日本ケミコンは最初は小型のキャパシタに導入することで、リスクを回避するとしています。

やっぱり最先端研究にはカネがいる。予算確保が不可欠だ。

 大型キャパシタの研究は日本が世界をリードしていました。しかし最近は政府の予算がリチウムイオン電池などの2次電池に集中したことも影響して、キャパシタ研究は停滞しています。

 キャパシタは蓄電技術としては筋がいいと思うのですが。やはり政府の予算が限られると、企業の関心も薄れてしまうものなのです。

 予算確保がすべて。最先端の研究は実に厳しい世界です。