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サイバー空間から顔を守る、プライバシーバイザー

 初めて、それを手にしたとき、正直に言えば毎日、身につけたくはないな、格好悪いなと思いました。あまりにデザインが無骨だからです。ほとんどゴーグルですね。開発の途中ですから、それも致し方ありません。

 しかし、もし本気で自分のプライバシーを守りたい人なら何とかして、この機能を手に入れたいと思うでしょう。なぜなら、「あなたの顔」をサイバー空間にさらすことを防いでくれるからです。

 この装置を開発したのは国立情報学研究所コンテンツ科学研究系の越前功准教授です。プライバシーバイザーと名付けられた、ゴーグル風の眼鏡です。

 バイザーの表面には11個のLEDが取り付けられ、電源を入れると近赤外線が照射されます。結果どうなるか。あなた自身には何の変化もありません。しかし相手、相手というのは顔検出機能付きデジカメで、ところかまわず撮影しまくっている人には影響があります。

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 バイザーの近赤外線によって、デジカメで撮影した顔は、顔として検出されません。顔が検出されなければ、その顔が誰か。顔認証はできません。すなわち、デジタル空間で、この顔の持ち主が誰なのか。特定できるようなデータとして照合されないのです。これで、あなたのプライバシーは守られます。それがこのバイザーの狙いです。

 もちろん、人間の肉眼で顔を認識し、誰か知っている人かどうか、頭の中で検索する。そういう行為は防ぐことはできません。要するにデータとして顔認証がなされないということです。

 

 越前准教授がプライバシーバイザーを最初に公開したのは2012年です。当時、国内ではずいぶん話題になりましたが、それ以上に反応したのが欧米の人々です。

 海外メディアで紹介されると、海外から300件以上の問い合わせが越前准教授の元にきたそうです。「すぐにでも製品にしたい」「俺が売ってあげる」「いますぐ商品を買いたい」。そういうオファーが多数あったそうです。われわれは研究者であって、メーカーではないと説明し、断るのが大変だったと、越前准教授は苦笑していました。

 欧米の人たちが鋭く反応したのは理解できますね。彼らのほうがプライバシーに関しては日本人よりも数段、敏感ですから。

 しかし、冒頭で述べたように、このバイザーは普段、気楽に使える眼鏡のレベルにはありません。それに近赤外線を照射するためのバッテリーを腰に装着する必要があります。

 越前准教授もその弱点は分かっていて、新しいバイザーを開発中だと説明していました。詳細は明らかにされていませんが、電源不要の光吸収・反射素材を用いることを研究しているとのことでした。

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 写真がそのイメージです。著名なデザイナーも開発に参加し、眼鏡をデザインしています。電源やLEDが不要になれば、きわめて安価に製造できる可能性があります。

 人のプライバシーはデジタル化によってますます無防備になりつつあります。Google Glassのようなウェアラブルの電子デバイスが誰でも普通に手に入るようになれば、それはさらに加速されるでしょう。彼は、彼女はどこで何をしているのか。彼らのプライバシーがデータとしてサイバー空間を飛び交う。そんな情景が思い浮かびます。

 プライバシーを晒す機能が発達すればするほど、プライバシーを守るためのソフトやハードに対するニーズは強くなるはずです。この分野はもっと研究されるべきです。言い換えれば、ここに大きなビジネスチャンスがあるともいえるでしょう。