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技術の現場から技術の先を読む    by MediaResource

人の脳でロボットを動かしながら、うつ病や発達障害を改善するメンタルヘルスケアシステム

 この実験はJSTの次世代医療機器新技術説明会(2月7日)で行われました。ヘッドギアのような装置を頭につけて、集中するだけです。すると、4本脚のロボットがギーギーと言いながら、動き出しました。雑念が入って、気分が散漫になるとロボットは止まります。念じると動くんですね。この仕組みはニューロフィードバックシステムと呼ばれ、開発したのは日本大学生産工学部綱島均教授です。

 一体、どんなメカニズムでこのロボットは動作しているのでしょうか。

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(手に持っている装置を頭に取り付ける)

 人間の脳の前頭葉両外背側部は精神疾患と深い関係がある領域として知られています。たとえば、うつ病の人はこの部分の働きが低下しているそうです。ということは、この領域の活動レベルが分かれば病気診断の補助になります。さらにその領域の活動を高めるようなツールがあれば、症状の改善に役立つ可能性があります。しかしそのためには、前頭葉両外背側部の活動が活発になっているのか、低下しているのかを、定量的に知る必要があります。

 その指標として綱島教授が着目したのが神経活動に必要な酸素を運ぶ血液中のヘモグロビン(酸素化ヘモグロビン)です。この変化を指標にして、前頭葉両外背側部の活動を定量的に測定する方法を考案したのです。

 ヘッドギアにはセンサーが取り付けてあって、前頭葉両外背側部の働きが高まっているか、低下しているかを、定量的に測定しています。その結果がロボットの動きをコントロールしているわけです。

 装置をうまく使いこなすにはある程度の練習が必要です。

 実験的なトレーニングは脳の活動レベルを色の変化でモニターに示すシステムで行っています。発達障害の患者に1日あたり1時間のトレーニングを7日間行ったところ、前頭葉両外背側部の活動が活発になったとの結果が得られています。

 うつ病の患者にはまだ適用していないそうです。うつ病の場合は、こうしたトレーニングに興味を持つかどうか。そのことがストレスにつながったりする可能性があるから、とのことでした。

 このシステムはかなり応用の幅が広いと思います。発達障害うつ病などの診断補助・症状改善だけではありません。車いすを動かしたり止めたりするといった介護福祉機器にも応用展開できます。脳の働きをうまく引き出すため、ゲームなどと連携するような仕組みも考えられるでしょう。

 綱島教授は脳の研究と同時に、列車などの交通機関の安全性研究も行っています。列車の運転手が睡眠時無呼吸症候群などで意識を失ったりするケースなどを研究している時に、このニューロフィードバックシステムのヒントを得たと、語っていました。