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技術の現場から技術の先を読む    by MediaResource

太陽電池の先端は有機にあり。膜の厚みのあるほうがエネルギー変換効率がいいという、塗るだけの太陽電池。

 JST(科学技術振興機構)が主催する「太陽光と光電変換機能」研究領域の公開シンポジウムが12月9日に東京・秋葉原でありました。

 口頭発表は全部で10本ありましたが、そのうち8本が有機薄膜太陽電池に関係するものでした。現在、太陽電池の主流はシリコン系ですが、研究の最先端は有機薄膜にあります。

 有機薄膜はシリコン系の太陽電池よりもエネルギー変換効率が低く、それが弱点ですが、製造設備が簡単で、コストも安くなるため、国もこの分野に力を入れています。だから研究も集中しているわけです。

 シンポジウムではいくつか興味深い発表がありましたが、理化学研究所の有機薄膜太陽電池は想像力をかきたてられました。

 発表者の尾坂格氏は広島大学から理化学研究所へ今年から移籍した研究者です。尾坂氏らが独自に開発した半導体ポリマーに、サッカーボール状の炭素結晶であるフラーレンを混ぜて作った有機薄膜太陽電池です。

 注目すべきは有機薄膜の厚みです。一般的に有機薄膜に使われる半導体ポリマーは厚く塗ったほうが、それだけ太陽光の吸収量は多くなり、発電に有利となります。ところが、従来の半導体ポリマーは膜が厚いと、せっかく発生した電荷をうまく運ぶことができず、エネルギー変換効率が低下する欠点がありました。そのため変換効率は5%程度。がんばっても10%ぐらいが最大でした。どうやって変換効率を上げるか、それが大きなテーマでもありました。

 ところが、尾坂氏らが新たに開発した半導体ポリマーは膜の厚さ300ナノ㍍で、エネルギー変換効率は最大で8.2%を実現しました。膜厚は従来の3倍あります。

 なぜそれができたのでしょうか。それは、半導体ポリマーの分子の配列をコントロールして、発生した電荷を運びやすい構造にしたからです。しかも分子設計でそれを実現したことに大きな意味があります。あらかじめ設計して分子をきれいに並べることができるようになれば、変換効率を高めることが容易になると考えられるからです。

 さらに、膜を厚く塗ってもいいということは、製造ラインにとっても大きなメリットです。ポリマーは塗りやすくなり、より高速な製造ラインが可能になるでしょう。結果的にコストダウンが進みます。

 有機薄膜太陽電池は軽くて、柔軟です。しかも製造コストが安い。その上、変化効率がシリコン並になれば、用途はさらに広がるはずです。