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技術の現場から技術の先を読む    by MediaResource

癌研究からエネルギーへ。耕作放棄地でミドリゾウリムシを培養しバイオエタノールを製造する

 同じ素材であっても視点が変わると、全く異なる技術やテーマが見えてきます。広島大学大学院の細谷浩史教授の研究はまさにそれでした。

 その研究とは原生動物のミドリゾウリムシです。アプリケーションはエネルギー。すなわち、ミドリゾウリムシからバイオエタノールを製造する研究です。

 ミドリゾウリムシはどこにでもいる淡水の原生動物です。一番、特徴的なことはその体内にクロレラがざっと400個程度、入っていることです。クロレラは植物です。つまり動物であるミドリゾウリムシの体内に植物のクロレラが共生しているのです。このためクロレラは共生藻と呼ばれています。

 昼間はクロレラが光合成を行って糖を放出します。ミドリゾウリムシはそれをエネルギーとして活動します。夜はクロレラはお休みです。その代わり、ミドリゾウリムシはそこらにいるバクテリア、細菌を食べる、そんな共生生活を送っているのです。

 クロレラが作る糖はマルトースが主な成分です。これをバイオエタノールの原料にすればいいというのが、細谷教授の考えです。

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 ミドリゾウリムシが体内に糖を蓄積していることは以前から知られていました。しかしどのくらいの糖があるのか、明らかにはなっていませんでした。誰も関心をもっていなかったのです。細谷教授はそこに着目し、ミドリゾウリムシが大量の糖を合成していることを初めて明らかにしました。

 では、どのくらいの糖をつくるのか。サトウキビは1ヘクタールの栽培面積で約7.65トンのかんしゃ糖がとれます。ミドリゾウリムシを広さ1ヘクタール、深さ2メートルの池で培養すると仮定すると、培養条件を最適化すればサトウキビとほぼ同じ量の糖を生産することができる、と細谷教授は試算しています。あくまで、培養条件を最適化した場合です。

 ミドリゾウリムシはサトウキビと違って日本中、どこででも増殖できます。培養は簡単で、レタスの煮汁と光と水があれば培養できるそうです。ただし、甘いので天敵対策が必要になるでしょう。培養の場所はあります。日本には耕作放棄地が39万ヘクタールあります。こういった土地を使えば実現できないことではありません。

 細谷教授がミドリゾウリムシの研究を始めたのは10数年前のことです。最初は癌の研究のためでした。ミドリゾウリムシ1匹の体内に共生するクロレラの数はどの個体も、おおむね400個程度なのです。これは何らかの制御が働いているのではないか。癌の増殖メカニズムのヒントになるかもしれないと、研究を始めたのでした。

 こうした研究の流れの中で、今度は糖に目を向けたわけです。時代がバイオマスエネルギーを求めているからです。

 今後、ミドリゾウリムシから糖を生産する技術を実現するには、2つの点を明らかにしなくてはいけません。ひとつは増殖方法です。ミドリゾウリムシの大量培養はまだ行われたことがありません。培養は試験管の中だけです。広い場所で本格的な大量培養の実験が不可欠です。もうひとつは合成された糖の大量精製方法です。

 これらの研究を企業などのと共同で取り組みたい。そう細谷教授は語っています。